戦略物資としての塩、
国産塩の安定供給は
私たちの使命
一般社団法人日本塩協会 代表理事会長 野田 毅
新しい団体がスタートしたことを機に、ホームページにつきましても刷新することと致しました。我が国では、昔から大変な苦労を重ねながら、自分たちに必要な塩は自分たちで手当てしてきました。今も、協会4社は少ない人数で安定した供給を続け、国民の食生活を陰で支えています。私たちは、戦略物資とも言える国産塩の安定供給を使命として、ここに決意を新たにした次第です。ホームページをご覧いただき、加盟4社社長の国産塩に対する、この想いを感じていただければ幸いです。
<食品新聞 2024年7月5日の記事より>
<食品新聞 2024年7月5日の記事より>
国産塩を守ることは、
食の安全保障の根本
一般社団法人日本塩協会 代表理事副会長
株式会社日本海水
代表取締役社長 西田 直裕
イオン交換膜製塩企業4社が、なぜ2024年の今、新たな団体を設立したのでしょうか。
国民生活に不可欠な塩の安定供給を維持するために、4社一丸となって課題解決に取り組むべき局面である、との認識で一致したためです。
塩は、刺激の伝達や消化吸収、細胞の正常化など、体内で重要な働きを担っています。誇張ではなく人の生命維持に不可欠で、しかも代替が効きません。食品加工の分野では、我々の提供する国産塩が使用品質の基準となっているユーザーも多く、製塩工程の副産物である苦汁(にがり)も含めて、広く日本の食を支えています。一方、22年2月にロシアがウクライナへ軍事侵攻したことで世界情勢が不安定になり、経営環境が悪化しています。従来の3倍以上に暴騰した石炭価格を筆頭に、製塩コストの半分を占めるエネルギー価格が上昇し、各社とも大きな痛手を被りました。建築資材や包材など、その他のコストも上昇し利益をさらに圧迫しました。2022年度に各社2度の価格改定を実施して一旦ピンチを切り抜けたと思ったのも束の間、急激な円安にインフレが重なって再び窮地に追い込まれている、というのが製塩業界の率直な現状です。もし日本の地政学的リスクが高まった場合、国内で少なくとも直接、食に必要な塩や、殆どの食品の製造に不可欠な塩の製造を確保することは、食品の安全保障の根本となります。しかし、この先も今の厳しい経済状況が続いた場合、国内製塩に赤信号が灯りかねません。国内では、人口減少や高齢化、減塩志向など、塩の消費漸減につながる要因がいくつもあります。そして、2050年カーボンエュートラルや物流の2024年問題など、未来に向けて対応すべき課題も山積しています。
我々4社はもちろんコンペティターですが、業界の未来を考えた時、やはり4社が一丸となって課題解決に当たることが望ましい。協力すべきことは協力し、事態の打開を図る体制を構築する。それが日本塩協会設立の趣旨です。
具体的な活動内容を教えてください。
4月に2つの分科会を立ち上げました。まず「カーボンニュートラル分科会」では、脱炭素に向けた情報共有を中心に行います。当社の赤穂工場では既にバイオマス発電設備が稼働しており、脱炭素化については一定の成果を得ました。有益な情報は積極的に会員同士で共有しながら、脱炭素化を早急に推し進めていく考えです。燃料転換は多額の投資を必要とするため、製塩企業にとって死活問題となりかねません。国や自治体に支援を求める機会も出てくるでしょう。4社が一致して訴えるからこそ、我々の窮状をご理解いただける場面もあるのではないかと思います。もう一つの「国産塩分科会」では、我々の作る国産塩の価値を一般消費者の皆様に正しく広く知っていただけるよう、取り組みを検討しています。我々が用いるイオン交換膜製塩法は、掛け値なしに世界で最も安全性に優れた製塩方法です。ろ過した海水を100万分の1ミリメートルの微細孔を通過させて濃縮した後、蒸発缶で効率よく塩の結晶を取り出します。水銀などの重金属はもちろん、PCBや海洋プラスチックなども完全にシャットアウトできます。日本には岩塩層が存在せず、雨が多く、天日塩を大量に作り出せる土地の確保も難しい。建屋に収まるイオン交換膜電気透析槽で濃縮海水を生み出す方法は、国土に適した製塩法だといえます。しかし残念ながら、イオン交換膜製塩法について、国民の認知度は未だ十分ではありません。日本独自の製塩法の特徴を、もっともっと知っていただきたい。
国産塩は、日常生活のあらゆる場面で必要
塩の使い方は、大変幅広く、生活のあらゆるところで使用されています。立て塩、呼び塩、強塩など、塩の多様な使い方もあるように、今まで日常にありすぎて、忘れていた言葉なども含め、塩にまつわる塩の大切についても改めて伝えていきたいと思います。
国民の食と命に関わる塩を製造し続けることは、我々国産塩メーカーが果たすベき重要な責務です。
4社のベクトルを
合わせる新体制
一般社団法人日本塩協会 理事
ダイヤソルト株式会社
代表取締役社長 熊野 直敏
日本は岩塩層がないうえに雨が多く、塩を入手するには恵まれない条件下にある
その中で人の生存に不可欠な塩を得るため、塩業界は長年にわたり様々な努力と技術革新を行ってきました。1905年、需給安定と技術の総合的発展を図る目的で塩専売制を創設し、塩の生産と流通を運営してきました。より高品質な塩を安定的に製造するために製塩技術が変革され、72年には塩田製塩方式を全廃し、新しいイオン交換膜電気透析方式へと全面的に転換しました。これを機にさらなる技術革新を目指して社団法人「日本塩工業会」が発足。技術変革や生産コストの低減、合理化などに取り組んできました。同会は様々な変遷を重ねた後、日本海水社不在の3社体制で運営を進めてきましたが、やはり3社のみでの取り組みでは業界の総意として十分とは言えませんでした。こうした中、昨今の世界情勢の激変や社会環境の変化により、業界団体として取り組まなければならない社会課題が顕著になってまいりました。特に西田副会長のインタビューにある通り、カーボンニュートラルの実現をはじめ、島国・日本における国内塩の重要性に関する正しい情報の発信など、4社がベクトルを合わせて取り組まなければ解決できない課題が多々あります。そうした認識を一つにして4社が結集し、新団体を発足させました。
有事が発生した際のBCP対応をよりスムーズに
4社が結集することには数多くの意義がありますが、中でも国や国民にとって最も意義が大きいのは、有事が発生した際のBCP対応だと思います。日本の塩は現在、国内塩のほか、輸入天日塩を溶解再生して製造する塩、輸入塩を加工する塩などがあり、お客様はそれぞれの品質や価格を見て選んでおられます。どの製法の塩も国•国民にとって重要な商品ではあることは間違いありません。ただし、有事の際に最も活躍できるのは、日本の保有資源である海水だけで製造するイオン交換膜法の国内塩です。日本は地震をはじめ自然災害が多い国であり、地政学的リスクも高まっている。万が一、有事が発生した際に国内で塩を安定供給できることは国にとって大変重要な課題です。国内塩の持つこの重要な価値を、国民の皆様に正しくご理解いただきたい。
今般、日本塩協会が発足したことで、4社が一致団結して有事の際のBCP対応をよりスムーズにできるようになったと言っても過言ではありません。カーボンニュートラルをはじめとした社会課題の解決にも、統一的かつスピーディに対応できると考えています。
安定供給で
国民の期待に応える
一般社団法人日本塩協会 理事
ナイカイ塩業株式会社
代表取締役社長 野﨑 泰彦
国民からの期待の表れと受け止め、信用と信頼をより高める方向へ
イオン交換膜法濃縮と真空式蒸発を行う製塩法では、熱と蒸気を生み出すエネルギー源として主に石炭を使用しています。これは1972年に塩田製塩を廃止し、イオン交換膜電気透析方式へと全面的に転換して以来、50年以上にわたって続けられてきた製塩法です。ここ数年の製塩業界は、コロナ禍に始まり石炭価格の異常な暴騰、資源価格の高騰に翻弄さ れてきました。石炭価格は一時の異常時に比べればいくぶん落ち着いてはいるものの、未だに高い水準に留まって各社の利益を圧迫し続けています。しかし、仮にボイラー交換を伴う燃料転換となった場合、企業規模に対して非常に大きな設備投資が必要となります。長期的なランニングコストも勘案しなければなりませんし、コス卜上昇による利益の減少もありえるでしょう。現在、会員各社は2012年に初めて成立した石油石炭税の減免措置を受けております。現在は23年度から3年間の措置継続の最中です。継続の判断がなされたことは、安全、安心な国産塩の安定供給に対する国民からの期待の表れと受け止めています。その期待に応え、皆様からの信用と信頼をより高める方向へ、日本塩協会は一丸となって進んでまいります。
歴史ある日本の塩づくりを未来へつなげる
同時に、2030年目標、そして2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、合理的かつ賢明な選択を探らなければなりません。最終的には個社の努力が求められますが、協会の力を結集して検討を加速いたします。私は、3社が会員だった日本塩工業会の代表理事副会長を今年の3月まで務めておりました。この度4社が揃い、野田毅会長、西田副会長による新たな協会の設立によって、業界の課題解決が大いに進展するものと期待しています。私も理事として、及ばずながら支えてまいります。
国産塩の特徴である「安全」「安心」な塩づくりには、より良い設備、より良い技術、より良い管理が必要です。塩業界には2000年に制定された「食用塩の安全衛生ガイドライン」があり、イオン交換膜法製塩の安全性の確立と品質の向上に資するものです。塩は人にとって不可欠な食品であり、需要がゼロになることはありません。とはいえ、年齢別人ロ構成比を見れば、塩需要が中長期的には漸減傾向であることは明らかです。その環境下で、どのように需要を維持していくか。4社一丸となって国産塩の魅力を伝え、歴史ある日本の塩づくりを未来へつなげたいと思います。
防災・BCPに国産塩は不可欠
一般社団法人日本塩協会 理事
鳴門塩業株式会社
代表取締役社長 安藝 順
緊急時の相互協力に関する基本合意書を締結
塩事業法第一条に、塩は「国民生活に不可欠な代替性のない物質」とあリます。地震や台風などの災害が頻発する我が国において、当協会の会員企業4社が国内5工場から塩を供給できることは、防災・BCPの観点から重要です。2023年6月、塩業界で「緊急時の相互協力に関する基本合意書」が締結されました。災害時等に塩の安定供給を果たすため、互いに最大限協力することを約束したものです。締結したのは、塩の製造から輸入•流通•物流に携わる団体•企業——国産塩4社に加えて塩事業センター、塩元売協同組合、塩輸送協会、日本特殊製法塩協会などで、引き続き有効なものとして体制強化に取り組んでまいります。
ほぼすべての企業が国産塩を使用
当協会の会員企業が用いるイオン交換膜法では、取水した海水を丁寧にろ過し、イオン交換膜の微細孔も通過させた上で真空蒸発缶で蒸発させます。清浄な海水を煮沸しながら塩を析出する方法だともいえるでしょう。安心、安全な塩を非常に高い水準で提供できる所以です。そのまま消費者のロに入る食用塩はもちろんのこと、その品質の高さから食品加工分野で はほぼすべての企業が国産塩を使用しています。しかしその事実は一般消費者まで届いていません。食品加エメーカーの方々であっても十分にご存知ない場合があるほどです。消費者ならびに食品業界へ、日本塩協会として積極的かつ継続的にアピールしなければなりません。国産塩は、古来から続く海水を用いた塩作りの延長線上にあります。
日本の塩作りの歴史を受け継ぎ、さらに次の時代へ引き継ぐ
当社を例に挙げると、徳島県鳴門では1599年から塩作りが行われており、当社はその歴史を受け継いでいます。塩田へ海水を引き入れていた水路が今も残り、製塩に端を発する企業や当時の面影を宿した文化など、製塩を中心とした発展の跡が今に受け継がれています。国産塩企業は4社とも日本の塩作りの歴史を受け継いでいます。その歴史をさらに次の時代へ引き継ぐためには、持続可能な事業でなければなりません。当社ではエネルギー転換について、10年ほど前から随時、検討を進めています。行政との連携方法などカーボンニュートラル分科会で共有される情報も活用し2030年目標とその先の2050年を見据えた持続可能な事業構築に努めます。